大判例

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東京高等裁判所 昭和34年(う)1907号 判決

被告人 鈴木和恵

〔抄 録〕

所論は要するに、原判決は審判の請求を受けない事実につき審判をした違法があるか又は刑事訴訟法第三一二条に違反した違法がある旨主張する。

仍つて所論に基き本件記録を精査検討するに、原判決は罪となるべき事実の項の第一、において、云々農業保険課所管事務に必要な印刷物の大量調達に当り、印刷業者玉江紙製品工業株式会社大日本印刷株式会社等を指名競争入札の参加者として指名し、落札の機会を得しめたことに関し……中略

(四) 昭和三〇年二月一二日頃現金一〇〇、〇〇〇円(内五〇、〇〇〇円は大日本印刷株式会社より同趣旨で供与する分として一括)

の各供与を受け

と判示しているところ、本件昭和三一年八月九日付起訴状記載の公訴事実によれば、云々同課が大量の印刷物を調達するに当り印刷業者である玉江紙製品工業株式会社を指名競争入札に参加させ、同社をして落札させたことがあつたところ……第四、昭和三十年二月十二日頃現金十万円を、いずれも東京都杉並区阿佐ケ谷二丁目六百五十番地の自宅に於て受取り、以て各その職務に関し賄賂を収受したものである。とあること洵に明らかである。

ところで、前記原判決認定の事実と前記の公訴事実の訴因とを相対比して考察するに、前記公訴事実の記載によれば、被告人は印刷業者である玉江紙製品工業株式会社を指名競争入札に参加させ、同社をして落札させたことに対して同社の社長江黒義男よりその取扱に対する謝礼の趣旨で供与される情を知りながら、昭和三〇年二月一二日頃現金一〇万円の供与を受けた事実につき起訴したものであり、該事実の中には原判決認定の如き大日本印刷株式会社より同趣旨で江黒義男を通じ一括交付された五万円の供与は含まれないのではないか、従つて両者の間に公訴事実の同一性がないのではないかとの疑いがないではないのである。然し乍ら、前記公訴事実のうち被告人が昭和三〇年二月一二日頃現金一〇万円を江黒義男より収受した事実と、前記原判決認定の昭和三〇年二月一二日頃現金一〇万円(内五万円は大日本印刷株式会社より同趣旨で供与する分として一括)の供与を受けた事実とは孰れもその供与の日時、場所、金額、受供与者を同じくするのであつて、両者の間に公訴事実の同一性を失うものとは解し難く、此の点右両者の間に公訴事実の同一性を欠く旨の所論は採用し難い。

而して原判決認定の如く、被告人が供与を受けた現金一〇万円の内五万円が大日本印刷株式会社より供与する分として江黒義男より一括交付を受けた事実については、前記公訴事実の訴因に何等の記載がないのであるから、裁判所としては前記の如く事実を認定するには須からく検察官をして訴因の変更をなさしめこれを明確にすべきであつたのである。然るに本件記録を精査検討するも何処にも前記原判決認定の事実につき訴因の変更又は追加の手続をなした跡を発見し難いのである。

果して然らば原判決は審判の請求を受けない事件について審判をした違法があるものと謂うべく(同旨最高裁判所昭和二七年(あ)第四五二号昭和二九年八月二〇日判決、最高裁判所判例集第八巻第八号一二四九頁参照)、此の点において論旨は結局その理由があり原判決はその有罪部分につき破棄を免れない。

(山本謹 渡辺好 関)

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